経営側が取るべき戦略

<戦略:正しい人選>

一にも二にも、雇用の時点で人選を間違えないことが最初の戦略となります。ネパールでは人層の高低差が大きく、裾野に至ってはひたすらだだっ広いので、当たれば期待以上の素晴らしい働きを得ることができ、外せば何人取っ換え引っ換え雇っても時間とエネルギーを浪費します。確かに、相当の覚悟と犠牲を持って日本にまで出稼ぎに来た人たちです。親族一同から搔き集めた借金も返済しなければなりません。真面目に働き、やがて良い習慣も身に着くでしょう。それでも最初の人選を誤ると、後々まで問題の火種が残ります。

提出される履歴書も、初めから疑ってかかるわけにはいきませんが、偽造・捏造も後を絶たず、国民全体がそれには慢性的に緩いので、実際に雇用して使ってみないと分からないというのが現状です。それで、面接時の熱心な売り込みにはあまり気を留めず、持てる潜在能力と資質そのものを見極めることが必須となります。ゆえに、誰にでも機会は与えるという姿勢は前面に出しつつも、CSI (Communication Style Inventory)に代表される適正検査や性格診断は欠かせません。予め、ネパール語と英語の検査用紙を用意しておくとよいでしょう。さらに、信頼するネパリの部下の推薦であっても、ネパリ同士でねんごろになり、推薦基準が緩んでいる場合もありますので、細心の注意が必要です。

<戦略:カーストによる人選の落し穴>

日本人経営サイドにとってカーストは、統計学的に幾らか知る分には多少の益となりますが、深入りすると偏見や妬みの温床になり得ます。カーストはヒンドゥー諸国の弁慶の泣き所であり、非常にデリケートな論題です。私自身も長年研究してきましたが、昨今は社会の複雑化により、カーストで人の特徴は語れなくなっています。苗字から割出すカーストを統計学的に判断しても、ネガティブな先入観が植え付けられるばかりで害となります。むしろ無垢な目で、一人一人に目を配る方がはるかに優れています。何よりカーストに無知な日本人社員が、好奇心からカーストを割出して触れ回るなら、ネパリ社員が偏見を持たれ、中には不要な社内苛めに遭うことにもなり、社には大きな損害となり得ます。それで、カーストによる人選は決してお勧めできません。あくまでも個々で判断し、適材適所を割り当てることです。

<戦略:正確な戦力の見積もり>

課長や係長がどんなに頑張っても、目標ノルマになかなか達成しないことがあるでしょう。そこでどんなにネパリのお尻を叩いても、何も出てきません。叩く側のストレスとジレンマだけが爆増し、いよいよ両者の関係は損なわれ、せっかく育てた戦力までもあっさりと失いかねません。では何が問題なのでしょう。それは、個々を含めたネパリチームの総合戦力を見積もり誤っているのです。これぐらいはできるだろう、という予測が外れているのです。ないところからは何も出てきません。もしろ既存のキャパをきちんと把握し、それを活用するという考え方に切り替えなければ、双方がエネルギーを消耗し合うだけでなく、真面目な上司なら、社のノルマとネパリチームの狭間に立たされ、ストレス死になりかねないほど大きな精神的圧力に晒されるでしょう。つまりノルマから計算し、チームにこれだけやりなさいと押し付けるのではなく、チームの戦力から逆算して、ノルマはこれくらいだと設定しなければならないのです。もちろんネパリたちは、土壇場で圧倒的なパワーを発揮します。「なんだ、こんなにできたじゃないか」と、大概の経営者は呆気に取られます。ところが、この力を普段から引き出すことは至難の業であり、火事場の馬鹿力で押し切った仕事にも高い質は期待できません。ゆえに、普段の力でいかに事に当たるか、ここが管理者側の思案のしどころなのです。

<戦略:核となる忠臣を育てる>

ネパリたちのこうした資質や能力を十二分に引き出すために、最も効果的な戦略の一つが、最初に1人か2人の核となる優秀かつ忠節なネパリの部下を育てることです。これが成功への大きな突破口になります。さらに続く世代を育てる際、この最初の部下を通すか通さないかで、管理に雲泥の差が生じます。もちろんその部下が単なるイエスマンであれば、他からすぐに見限られ無意味となるでしょう。かといってネパリ同士でねんごろになり、ただのネパールクラブになっては実も蓋もありません。それで、世話見がよくとも自分に厳しく、社の方針にはきちんと従い、真面目に職務に当たれる高い管理能力を示す人材を育てることが、チームを構築する盤石な土台となるのです。一つがうまくいけば、次のチームも同じ要領で育てていくことができるでしょう。これら全ては、核となるネパリの能力と資質に依存します。慌てずじっくり土台を固めるところです。

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