管理者側に求められる理解

<理解:減点法と加点法>

ネパリを教育する際、管理者側にはどのような理解が求められているのでしょうか。まず初めに、基礎的な減点法と加点法を理解する必要があります。その理解を深めれば、ネパリに対して外さない扱い方を実行できるでしょう。

日本は世界でも有数の、極減点法の国です。満点から欠点や弱点を差し引き、残った点数で評価されます。これは高い質と競争力を生み出し、技術と品質で世界にのし上がった企業国・日本には不可欠でした。同時にこのシステムにより、“脱落者”と、強い優越感や劣等感という歪んだ精神が生み落とされました。ちなみに点を失いたくないという発想も、日本らしいものとなりました。

一方加点法は、ゼロから始めて何でも加点し、最後に累計して評価する方法です。逆に欠点や弱点などのマイナスの部分は、文字通り最初から水面下に没して誰の目にも留まりません。ゆえに何もしないと何の評価も受けませんが、何であれ攻めにさえ出れば評価されるのです。つまり加点法は、一歩踏み出せば評価され、互いを認め合うゆるゆるの、人には実に優しい環境を生み出します。長所や努力を誉め、欠点や弱点には見向きもしないネパールは、典型的な加点法の国なのです。ただし後にも触れますが、ネパールの学校教育にも減点法は取り入れられ、学生たちは厳しい甲乙の中で揉まれ始めています。

ところが加点法においては、高い質のものは決して望めません。これは日本企業にとっては考えられないことです。かといって初めから、「君のここがダメだ、ここができていない、ここが問題だ」と、逐一弱点ばかりを突いていては、ネパリたちは直ぐに、「自分は評価されていない」「この会社では必要とされていない」「自分はそんな人間じゃない」などと、さっさと荷物をまとめて辞めていくでしょう。ここが多くの日本人経営者が失敗してきたところです。同じ轍を踏まないよう、減点法と加点法の一長一短を理解して上手に使い分けることが、ネパリ社員をうまく活かして成長させる鍵となるのです。

<理解:「人」に着く性質>

では、どうやって彼らのモチベーションを高め、会社に引き留め、継続して教育を施していけるのでしょうか。それはネパリの多くが、会社の規律や社会規範などにはあまり頓着せず、むしろ人に着くということを認識することです。分かりやすく言うならば、日本人には「決まりだから」「仕事だから」「常識だから」「責任だから」「給料をもらっているから」などと、ルールや社会規範を伝えるだけで十分なところでも、ネパリには全くぴんときません。取り敢えずの相槌は打っても、目が確実に泳いでいます。ですが彼らに、「うーん、僕はそのやり方は好きじゃないな」「私はあなたのそうした努力がいいと思うわ」「そんなんじゃ、君の上司は嫌がるよ」「〇〇さんは、こういう仕事をとても喜ぶよ」などと伝えれば、彼らは俄然やる気を出して頑張ります。つまりネパリは人に追従するのです。目に見えない規律や原則ではありません。彼らがあなたの顔色を常に覗っていることを忘れないでください。

<理解:信頼関係を築く>

ネパリと良い関係ができなければ、これらの努力もただの水泡と帰すでしょう。「人」しか見ていないネパリにとって、上司と自分との関係は何よりも重要であり、そこを過小評価する希薄な管理者たちは決して成功できません。

では、彼らと良い信頼関係を築くために、何をしなければなりませんか。それは細やかな世話です。彼らをファミリーとみなせれば、それに越したことはありません。彼らが少々失敗しようが気にならず、精神衛生上もプラスアルファとなります。「ここは会社だ、そんな子ども扱いはできない」と言う方も多いでしょう。それでも年上の上司であれば、親や兄貴、また姉貴のような気持で面倒を見てあげられれば申し分ありません。大好きな観葉植物にまめに水をあげるように、彼らにもまめに声をかけることを忘れてはなりません。「いいねえ」「調子はどうだい?」「昨日の仕事は良かったよ」「お母さんの具合はどう?」「分からないことがあったらいつでも相談してね」などの短い一言を、毎日少しずつかけてあげることによって、彼らはモチベーションをぐんぐん上げ、ばりばり働くことでしょう。

同年代の上司の場合、ネパリにどう振舞えばよいでしょう。友としてです。日本では立場が上なら、多少ぞんざいで高圧的な言動も許されますが、世界を見てもそうした国は少なく、ネパールでも同様に対等な関係が好まれます。ネパール語にも敬語は存在し、目上の人には敬語を用いますが、「君」「お前」といった対等もしくは目下への表現もあり、その点では日本と非常に似通った文化体系です。ゆえにネパリも上下関係を重要視しますが、決して日本ほど権威主義的ではなく、官庁や役所を除けば、互いに尊厳を持って扱うのが普通です。意地悪や苛めはまず存在しません。日本のように、親や上司、配偶者など、内輪をなじったり虚仮にするなど、彼らには到底考えられないことなのです。

<理解:尊厳を重んじる>

ネパールは、複雑に入り組んだ文化体系の多民族が肩を並べて共存してきました。互いに疎遠で何の関心も持っていない半面、互いを尊重し合う強い感覚も身に着けています。これは、単一民族国家を何世紀も貫いてきた日本が、もしや疎かにしてきた分野かもしれません。「常識だ」「当たり前だ」「それが社会だ」と、自然に口にする日本人。万が一上司がそうした言動を取るなら、ネパリには強要と取られ、生理的に拒否されてしまいます。ましてや、「君は日本にいるんだ!日本のやり方を学びなさい」などと押しつけようものなら、その場では柔順を装っても、心の中では早くも見切りを着けるでしょう。せっかく繋ぎかかった大切なアタッチメントも、ぷちっと切れてしまうのです。

<理解:見下さない>

「人」に着くネパリ。ゆえに、人の気持ちや感情の動きを的確に捉えます。どうぞ、ご自分の胸に手を当ててこう自問してみてください。「私は彼らのことを見下していないだろうか。しょせん貧乏国から来た田舎者だ。知恵も知識も欠けている。見てみろ。彼らの仕事は全く話にならない」。もしもこのような考えや感情が、あなたの心の奥底に隠されているとするならば、彼らはそれを確実に感じ取るでしょう。なぜなら、彼らは「人」に着く国民だからです。同時に彼らは、このように私たちにはない多くの能力や才能に溢れています。火事場の瞬発力。何かが起これば絶対に駆けつける気概。いつでも人の役に立ちたいと思っている善良さ。どんな状況にも文句も言わずに甘んじる忍耐力…挙げれば切りがありません。ぜひ、彼らのすばらしい資質に目を向けてください。必ずあなたと彼らの関係は向上し、あなたのビジネスに貢献する立派な社員へと彼らを成長させることができるでしょう。

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